Collabo Interview

interviewer:真実 一郎 / 2025.July

●Longneckを代表するソフビ「遊星魔人」はこうして生まれた

いまや世界中にファンがいるソフビ・ブランドLongneckですが、どのようにスタートしたのでしょうか。

僕はコスモナイトαというソフビ人形中心の古物店を2001年から経営していて、そこで知り合いのインディーズ・ソフビの限定コラボ版を発売したり、開発のお手伝いをしていたんですね。それが楽しくて、そのうち僕もやりたいなと思って、2006年にLongneckとして最初の怪獣ソフビを作りました。それが上手くいったので、いろいろ作るようになって今に至ります。

Longneckというブランド名の由来を教えてください。

ロングネックという名前のマイナーな怪獣がいるんですよ。『ファイヤーマン』という昔の特撮番組に出てきて、誰も思い出せないような怪獣なんですが(笑)、アルファベット表記した時に、なんとなくおさまりがいいなと思ったんです。また、後付けですがお客様に対して「首を長くしてお待ちください」という意味にもなっています。

Longneckはガスバウワーから始まって現在までに7作が作られていますが、なかでも今回ENKA版が発売される遊星魔人はブランドのシンボルともいえる存在です。遊星魔人はどのようにして生み出されたのでしょうか。

2008年に発売した3作目のデムパゴンという怪獣の人気が長続きして、塗装のバリエーションで4年間くらいずっと売れ続けたんです。ファンの人からは「新作を出してください」と言われていたんですが、売れ続けていたせいで、新しいキャラが思い浮かばない状態が続きました。

そんな生みの苦しみが続いたときに、コスモスという自販機玩具メーカーが1980年代に作っていたエイリアンという小さいソフビを久々に入手したんです。「あ、これ昔持ってたし、気にいってたな」と思い出して。「これをデカくしよう」「手はハサミとムチにしよう」とエンジンがどんどんかかってイメージが広がって、「ああこれだ!」と思って遊星魔人が出来たんです。

遊星魔人を出したとき、手ごたえはすぐにありましたか?

めっちゃ、ありましたね。あの頃はSNSはほぼ無かったので、海外からの問い合わせはアメリカから多少あったくらいですけど、国内のソフビ・ファンから凄い反響でした。ちょうどリーマンショックとか震災の影響でヴィンテージ・ソフビの売り上げが低迷している時期だったので、遊星魔人が売れたおかげでお店を続けられたというか。当時は店の一日の売り上げがゼロという日が結構あって、辛いなと思っていたところだったので。

まさに遊星魔人は救世主だったんですね。

遊星魔人がヒットしてグワーッと忙しくなって、そのおかげでヴィンテージのほうにも注目が広がって、どっちもうまく回り始めた感じですね。

●LongneckのENKA VINYL版は一般流通品として身近な存在にしたい

その遊星魔人をはじめとするLongneckのソフビを、今後ENKA VINYLからミドルサイズで続々と発売されることになったわけですが、その経緯を教えてください。

Longneckのソフビは、もともと大量には作らないと決めていたんです。だいたい1回につき10個しか作りません。自分の生産能力の限界も分かっているので。でも多くの人に手に取ってもらいたいという気持ちもあったんです。

そこで、ENKAさんに作ってもらえば、受注でたくさん作れるなと思ったんです。しかも小さいサイズにもしてみたかったし、遊星魔人の足も可動させてみたかった。やりたかったことを全部ENKAさんに実現してもらえたので、非常に嬉しいです。

実際に出来上がった第1弾の遊星魔人とデスメナーゴを拝見しましたが、スタンダードの持ち味を残したまま、いいバランスの造形と塗装になっていますね。

原型師さんと結構やり取りさせてもらいましたが、すごく上手い方だったので、希望通りの落としどころに持っていっていただけました。

遊星魔人の足が可動するので、デスメナーゴに乗せて遊べるようにしたかったんです。大きいサイズだと出来ないので。だから気軽に外に持ち歩いて、写真を撮ったりしてもらえるんじゃないかなと思います。LongneckのENKA版は「一般流通品」ということで気軽に買ってほしいですね。

デスメナーゴは、スタンダードサイズのものより顔がリアルになっていたり、首の角度が違ったり、リファインされていますね。

この怪獣は、僕が幼少期に目玉が取れたナメゴンのソフビで遊んでいたという原体験から生まれました。もともと2パーツだったけれど、ENKA版は3パーツになって進化しています。顔はドクロのポリ人形を模したものだったけれど、今だったらこうしたいなという新しい造形にしました。首の角度を変えたのは、遊星魔人を乗せやすくするためですね。

デスメナーゴの底の部分にほどこされたエッチな造形はLongneck版を踏襲していますね。

小学校の修学旅行のとき、おじさんとおばさんが正座している民芸品の人形がお土産屋にあって、裏返すと性器がついていてビックリした記憶があります。そういう感じで、これも手に取って「何だこりゃ」と思ってほしいんです。Longneckの人形は、どれも正面の写真だけでは分からなくて、手に取って後ろとか下をみると何かある、という仕掛けがあるんです。その部分はENKA版でも踏襲したいですね。

●今後ENKA版の発売が予定される怪獣たち

第1弾以降も続々とENKA版が発売されますが、それぞれのキャラクターについて伺いたいと思います。まずLongneck最初の怪獣となったガスバウワーは、どういった経緯で生まれたのでしょうか。

ガスバウワーは2006年に発売しました。当時は一つ目怪獣のインディーズ・ソフビが流行っていたので、一つ目の怪獣を作ろうと考えたんです。自分でラフなデザインを描いて、原型師さんと打ち合わせをしていく中で、富士山をモチーフにしようということになって。それで山頂から煙を吐いてる怪獣のイメージが出来ました。

そこからデスナメーゴ、そしてデムパゴンと続くわけですね。

そうです。デムパゴンは、1970年代に発売されていたIKBのスモゴン1号という怪獣ソフビのシルエットを参考に、電波機器のテレビとかパソコンとか東京タワーをミックスさせて出来た怪獣でした。自分としては盛り上がってノリノリで作った作品です。いろいろなキャラクターの意匠を模した塗装でバリエーション展開していく、というLongneckの方針はデムパゴンから始まりました。

そしてその4年後に遊星魔人が生まれ、遊星魔人MOON、海底魔人へと続くわけですね。

映画『月世界旅行』(1902)の月を昔からソフビ化したかったので、遊星魔人を作ったときに、どうせだったら頭だけ月に変えようと思って作ったのがMOONでした。結果的に上手くいったけれど、原型は何回も作り直しました。劇中の月は男顔っぽいので、原型も最初は男顔だったんですよね。でも僕は、月は女性顔のほうがいいなと思っていたので、女性のイメージを落とし込むのに時間がかかりました。

その後に発売された海底魔人は、遊星魔人と同じくコスモスのエイリアンがモチーフになっていますよね。

はい、コスモスのエイリアンは2つバージョンがあったので、もうひとつのほうを大きくしたという感じです。僕なりに海系の魔人として再解釈して、モールドを荒くして、とさかを2つにして、水かきを付けて。宇宙のものと海のものとして住み分けさせるという狙いでした。

●ENKA版を出すことで一般化し、進化する

そして現在のところ最新作である絶パんダくんが2022年に生まれます。

絶パんダくんはコスモナイトαの広告キャラとして、以前から雑誌広告に四コマ漫画を描いていたんです。だからソフビ化した時は、昔からこのキャラを知っている人から「やっとソフビ化ですね」と言われました。漫画を毎月楽しみにしていましたと言ってくれて、そう思ってくれる人がいて嬉しかったですね。2人だけでしたが(笑)。

それまでの怪獣系とは違って、キャラクター系のソフビは初めてでしたよね。

これはマニア受けではなく一般受けするような感じにしたいなと思っていました。でも結局、想定した人ではなく、これまでLongneckを買ってくれているコアな人が買うソフビになっています。

やはり生産個数が少ないとそうなってしまいますよね。

基本的に10個しか作らないし、作れないですからね。最初は売れないと思っていたんですが、おかげさまで欲しいという声が増えてきたので続けています。でも転売屋対策で売値をどんどん上げざるを得ず、申し訳ない感じになっています。

絶パんダ君こそ、ENKA版を出すことによって、一般の人に買っていただくという当初の目的が叶いますね。

まさにその通りです。僕の生産能力では限界があるので、ENKA版をどんどん買ってもらいたいなと思っています。絶パんダくんも含め、ENKA版は造形も塗装もクオリティにすごく満足しています。お買い求めしやすい価格で、受注生産なので、ふだんLongneckを手に入れられない人にも買って遊んでほしいですね。

最後に、ENKA VINYLに今後どのようなことを期待しているか教えてください。

今回は遊星魔人とデスメナーゴを作っていただきましたが、個人的にはLongneckの初期の3体(ガスバウワー、デスメナーゴ、デムパゴン)は、ENKAさんで進化したものが生まれることを期待しています。あの3体はもうオールドタイプだと思っているので、ENKAさんの現在の感性でリファインしてほしいです。頭が動かなかったり、足が動かなかったりするので、そういう部分も動くようになって生まれ変わるのも楽しみですね。

より詳細なインタビューはこちら

Longneck

ヴィンテージ玩具専門店『コスモナイトα』の依田雅彦店長が2006年に立ち上げたソフビ・メーカー。昭和のマニアックなソフビや駄玩具に触発された、少し不思議な怪獣やキャラクターを生み出し続けている。手に取って初めて気づくような仕掛けがある、遊び心のある造形が特徴。

https://www.instagram.com/yodamasahico/