Collabo Interview

interviewer:真実 一郎 / 2025.September

●それぞれの「物語」を持って生まれる東和玩具のソフビたち

東和玩具の作るソフビは、どこか童話的というか民話的というか、物語を感じます。

もともとは絵本作家になりたかったんですよね。だからソフビにも小説を付けてみたり、ヘッダーをつなげると絵本になるようにしてみたり、背景には必ずそれぞれのソフビの物語が存在しています。

初期の作品である指人形を作ったときは、なにがモチーフだったんですか?

最初からオリジナルを作っても急には売れないと考えていたので、初めはモチーフがあるものを作ろうと思いました。パチ怪獣とか、子供番組のキャラクターとかを参考にして、知っているか知らないかの瀬戸際あたりを攻めながら。そこから徐々にオリジナルを作ろうと思っていました。

なるほど、マーケティング的な思考もされていたんですね。

そうですね。広告系の会社にいたので、コンセプトとかプランニングとか、多少はそういったことが頭の中にあったのだと思います。

例えば「ジゴワ」は、『まんがはじめて物語』のモグタンというキャラをモチーフにしました。モグタンは実写の人形劇なのに、過去に行って歴史を探るパートでアニメになるんです。だから胸には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の次元転移装置を付けてみました。

「キヨジーラ」は、山下清という放浪画家の『清の見た夢』という絵があるんですけど、そこに描かれた一つ目巨人を参考にしています。絵では下半身が水中に隠れているので、その部分は自分で想像して作りました。

そうした初期の指人形作品を経て、現在は可動ソフビの猿人シリーズや宇宙人シリーズなど独自の世界観を追求されていますよね。

この小さい生き物が乱獲されたら怒って別のキャラクターになったとか、それぞれのキャラクターの世界も実はつながっているんです。

次はどんなものを作る予定なのでしょうか。

金型は既に結構いっぱい作ってあるんです。例えば、夏⽬漱⽯の『夢⼗夜』という幻想的な短編⼩説があるんですが、その中に⾃分が⽣きているのか死んでいるのかわからない落ち武者が出てきたら面白いのでは、と考えて、いろんな顔の落ち武者とその物語を作っています。司馬遼太郎の小説も好きなので、井伊直弼とか緒方洪庵とか、幕末に関するストーリーと併せたソフビも考えています。売れるかどうかわからないですけど。

物語のある独自のユニバースがどんどん広がっていきそうですね。東和玩具にはソフビ界のトレンドを追わない普遍性があるように思います。

もともと東和玩具という名前もクラシックなイメージでダブルミーニングにしたくて、「永遠」の「とわ」にかけて東和にしたんです。市川崑の映画タイトルのような極太明朝のイメージで。

●学問としてのデザインに裏付けられた独特の色彩感覚

普段は学校でデザインを教えてらっしゃるんですよね?

はい、週に3回4回は都内の専門学校で教師をやっています。学校で教えている内容は「ベーシック・デザイン」といって、平面構成とか色相とか、国が定めた基礎カリキュラムです。石粉粘土を使った造形も教えています。

新卒で会社に就職してからすぐに独立してイラストを描いていたんですが、イラストレーターとしてポートフォリオを作ったときに立体作品も載せていたら、立体ばかり頼まれるようになって、いろんな雑誌の表紙を飾る人形をオーブンクレイで作る仕事を長くしていました。そうしているうちに、学校でデザインを教えるようになりました。

仕事で立体作品を作っていたから、ソフビを作る流れになったんですね。

子供の頃にソフビで遊んだ記憶は全くなくて、大人になってから2000年代のインディーズ・ソフビ・ブームでソフビにハマりました。ガーガメルのゾッキ怪獣シリーズとか、マーミットのビニパラ・ベビー・シリーズとか、すごく集めましたね。あと渋谷のアメトイ・ショップのZAAPに行って、大好きな映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のフィギュアもよく買っていました。

自分でもソフビが作れるかなと思ったのは2019年頃です。造形の仕事をしていたし、陶芸もやっていたので、指人形くらいならすぐに作れるだろうと思っていたんですが、甘かったですね。最初の頃はワックス転換(蝋型制作)とか、なかなか上手くできませんでした。

いまもワックス原型まで自分で作っているので、ワックスでどの程度の深さで掘ったらドライブラシ塗装に合うかどうかとか、塗装手法を先に考えながら作ったりしています。

絵をやってらっしゃるからなのか、塗装や色彩感覚がほかのソフビメーカーと違いますよね。

色相が好きなんです。ずっとDICの色見本を見ながら成型色と塗装のことを考えています。基本的にくるみ塗装はしないので、成型色にはとてもこだわっていますね。

塗装もすべてご自身でやられているんですよね?

普通の家の普通の部屋で、全部一人でやっています。平筆で手で塗るのが好きなんですよね。ドライブラシしてみたり、拭き取りしてみたり。でもあの塗料の臭いに耐える体力がないので、一回で作れるのはだいたい30個くらいですね。そもそも塗装から組み立てまで全部自分の部屋で行っているので、部屋に30個以上置けないんです。もし自分の部屋が無かったら、ソフビは作っていなかったかもしれないですね。

●ENKA VINYLコラボで版権ソフビの原型に続々挑戦

今回ENKA VINYLとのコラボで、東和玩具として初めて版権キャラクターのソフビを発売されます。その第一弾のうちのひとつが『ゴジラ対ヘドラ』(1971)のヘドラ、それも劇中に登場するアニメ版となります。

『ゴジラ対ヘドラ』は、自衛隊の作戦ものみたいなシリアスな部分もあるのに、サイケなディスコで踊るシーンがあったり、突然かわいいアニメ・パートが始まったりして、面白いですよね。特にアニメのヘドラがすごくかわいくて、デザインも色遣いも、とても好きでした。アニメの中では水中を動いているから、脚があるのかないのかわからないけれど、自分なりに想像して作りました。

ヘドラを作る際は、細かくブロック状にちぎった粘土をギューっと固めて塊にして、作為的ではない面白い部分を残そうと意識しました。「偶然性の面白さ」というか、新しい作り方にチャレンジしたんです。ヘドラって、ヘドロじゃないですか。もともと流動的な塊の怪獣なので、偶然できた形の面白さを生かす作り方をしています。

成型色も、最終的には思い通りの色が出せたので満足しています。

ヘドラに加えて、『ウルトラマン』に登場するウー、そして『マジンガーZ 』に登場するアフロダイAも発売されます。

あまりウルトラ怪獣に詳しくは無いんですが、ウーは大好きです。怪獣なのか妖怪なのかよくわからない部分が好きですね。毛に覆われたキャラが自分の作品に多いのも、ウーに影響を受けていると思います。

アフロダイAは、自分なりに解釈して太めに作りました。黄色とピンクという、男っぽくない色が好きなキャラクターです。

今後はENKA VINYLとのコラボはどんな基準で作ってくのでしょうか?

自分が原型を作って、ENKA VINYLさんが版権獲得と生産、販売をしてくださる、という形で、一年間に3種類くらいのペースで出していこうと思います。デビルマンとシンゴジラは作る予定で、デザインはほぼ出来ています。自分は原型を作るのは相当早いので、すぐ出来てしまうかもしれません。

もともと東和玩具のソフビは生産数が少ないので、今回のENKA VINYLコラボで初めて東和玩具のソフビを手にすることができる人も多いでしょうから、すごくいいコラボだと思います。

個人で自分の部屋でソフビを量産するのは限界があると感じていたので、自分としても楽しみです。もしニーズがあるのであれば、ヘドラは成型色をピンクや黄色にしたバージョンも出したいですね。

東和玩具

2020年から活動しているインディーズのソフビ・メーカー。絵本や巻物から出てきたような、奇妙だけれど可愛い独特な味わいのソフビが国内外で愛されている。上海、香港、台湾など海外でも個展を定期的に開催。

https://www.instagram.com/nijiyana/